東京高等裁判所 平成11年(行ケ)221号 判決 2000年6月13日
原告
日本セイフティー株式会社
代表者代表取締役
【A】
原告
近畿パネル株式会社
代表者代表取締役
【B】
原告ら訴訟代理人弁理士
【C】
同
【D】
被告
日本機電株式会社
代表者代表取締役
【E】
訴訟代理人弁護士
米津稜威雄
同
長嶋憲一
同
佐貫葉子
同
野口英彦
同
世戸孝司
同
西畠義昭
同
高橋利郎
同弁理士
【F】
主文
特許庁が平成10年審判第35439号事件について平成11年5月31日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告ら
主文同旨
2 被告
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「仮囲い板」とする特許第2640711号発明(平成4年11月27日特許出願、平成9年5月2日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。
原告らは、平成10年9月9日、本件発明に係る特許の無効の審判を請求し、同請求は平成10年審判第35439号事件として審理された。被告は、この審理の過程で、本件発明に係る明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、同事件について、平成11年5月31日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年6月28日、原告らに送達した。
2 特許請求の範囲請求項1の記載(別紙図面参照)
(1) 本件訂正前
板本体(1)の両側端に側面体(2)を形成し、側面体(2)の適宜位置に穴(3)を設け、さらに、側面体(2)を折り曲げて嵌合部(2b)を形成したことを特徴とする仮囲い板。
(2) 本件訂正後(以下、この発明を「本件発明1」という。)板本体(1)の両側端に側面体(2)を形成し、側面体(2)の適宜位置に横枠(10a)に巻き付ける番線(11)の通し用の穴(3)を設け、さらに、側面体(2)を折り曲げて嵌合部(2b)を形成したことを特徴とする仮囲い板。
3 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおり、①本件発明1は、実公昭50-4523号公報(審決の甲第1号証、本訴の甲第3号証、以下「引用例1」という。)、実願昭52-43966号(実開昭53-139718号)のマイクロフィルム(審決の甲第2号証、本訴の甲第4号証、以下「引用例2」という。)各記載の考案に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない、②本件訂正後の特許請求の範囲請求項2ないし4に係る発明(以下「本件発明2ないし4」という。)は、本件発明1にそれぞれ他の構成を付加したものであるから、やはり引用例1、2各記載の考案に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない、などとして本件訂正を認め、これを前提として、原告らの主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1ないし4の特許を無効とすることはできないと認定判断した。
第3原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由1ないし4は認める。同5は、本件発明1と引用例1記載の考案の一致点及び相違点の認定(11頁下から2行ないし12頁9行)を認め、その余を争う。同6、7は争う。
審決は、相違点(ⅰ)、(ⅱ)についての判断を誤った結果、本件発明1に独立特許要件がないのにこれを看過して本件訂正を認めたものであって、上記誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 相違点(ⅰ)についての判断の誤り
相違点(ⅰ)に関して、原告らは、審判において、「連結用穴が開けられたものではこの穴に紐や針金を挿通して結束するのが初期段階であって・・・、ボルト等の締結具にするのが次の発明の段階である。」(審決16頁3行~11行参照)と主張した。これは、針金を結束用に使用することは、ボルトが発明される以前の結束手段として普通に使用されていたことを述べたものである。これに対して、審決は、「この事実を証明する証拠は、何ら提示されていなく、当該技術分野において自明なこととも認められない」(審決16頁14行~16行)と判断したが、誤りである。
(1) 番線(針金)を穿った穴に通して複数の物を結束することは、針金の本来の使用方法に属するものとして、古くから存在する、技術とはいえないほどの自明の技術である。本件発明1の「仮囲い板を横支柱に固定させるのみならず、仮囲い板同士を連結させる機能」は、この古くから使用されている番線のごく普通の使用方法を採用して、支柱と囲い板を結束したことの結果として生じたものにすぎない。
(2) 実開昭63-198612号公報(以下「甲第5号証公報」という。)には、「フェンス固定具」に関し、従来技術として、フェンスを横枠に番線9で固定した図面が示されている。そして、甲第5号証公報に係る出願である実願昭62-87494号の明細書及び図面(以下、これをまとめて「甲第5号証明細書」という。)には、「従来、この連結固定には、針金9を用いることによって緊縛固定していた。」(2頁4行ないし5行)としたうえで、針金での緊縛固定の欠点が述べられている(同頁11行ないし19行)。
特開昭57-3969号公報(以下「甲第6号証公報」という。)には、「仮囲い組立法」に関し、フェンスを横枠(胴縁6)に針金9で囲んで支え材8に緊縛している図面(第7図)が示され、「支え材(8)と、塀板凸部(1)の内側との間に針金(9)等を挿通し・・・針金(9)等で胴縁(6)を囲んで、支え材(8) と固く結束し 第7図(裏面図)の様に、枠組に塀板(A)を固定して完成する。」(1頁右下欄末行ないし2頁左上欄5行)と記載されている。
例えばこれらにもみられるとおり、針金でフェンスを連結し、緊縛固定する技術は、古くからごく普通に使用されていたのである。
2 相違点(ⅱ)についての判断の誤り
審決は、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用することの合理的理由は認められないと判断したが、誤りである。
引用例1記載の考案を実施しようとする当業者が引用例2記載の考案を知れば、接合部分から雨水が壁面内に浸入することや、壁面全体が弱いことなど、引用例1記載の考案の欠点を解消するために、側面体を折り曲げて形成した嵌合部を持つ板体の構造である引用例2記載の考案の技術を用いることには、容易に想到するものである。
第4被告の反論の要点
1 相違点(ⅰ)についての判断の誤りについて
(1) 原告らは、針金を穴に通して物を結束するために使用することは自明の技術であると主張する。しかし、本件発明1の要旨は、「仮囲い板」の穴に番線を通して、これを結束することのみにあるのではなく、これに、番線を通し、「さらに、横枠に仮囲い板を固定する」点も加わっているのであり、このことまでが自明であるとはいえない。
囲い全体の強度を高めるためには、ユニット板を横支柱に固定させることが必要であり、囲いの構造の簡略化、部品点数の減少、製品としてのコスト低減などを考慮すると、ユニット板同士を連結すると同時に横支柱にも固定させることが望ましいことは明らかである。しかし、従来技術においては、ユニット板を連結して同時に支柱に結合させることが困難であり、特に、ユニット板を横支柱に結合させることはできなかったのである。
(2) 本件発明1は、前面に隙間のない「仮囲い板」による囲いに関する技術であり、甲第5号証公報記載の考案は、フェンスの取付けの技術であって、両者は別技術である。
すなわち、本件発明1は、囲みの内側にある作業現場が見られないようにするために、また、囲い全体の美観をよくするために、前面に隙間のない「仮囲い板」により囲いを設けるものである。そして、このような前面に隙間のない「仮囲い板」であるために、その連結及び支柱への固定が困難であり、その連結等に様々な工夫がなされているのである。具体的には、本件発明1では、「仮囲い板」同士の連結のために両端に側面体を設けている。また、側面体の連結を容易かつ強固に行えるように側面体を折り曲げて嵌合部を形成している。さらに、「仮囲い板」の連結及び横支柱への固定のために、側面体の適宜位置に番線の通し用の穴を設けたものである。
一方、甲第5号証公報及び同号証明細書のフェンスの前面は網目状になっており、この網目に番線を通過させる。そのため、フェンスの連結やフェンスの支柱への固定に「仮囲い板」に用いられる技術は不要であり、フェンス網目に直接番線を通すことで連結等が可能となるものである。
このように、フェンスに用いられる技術と「仮囲い板」に用いられる技術は、全く異なるものであるから、フェンスに用いられる技術である甲第5号証公報及び同号証明細書記載の技術をもって、本件発明1の進歩性は否定されない。
(3) 甲第6号証公報記載の発明は、本件発明1の重要な構成要件である「側面体(2)の適宜位置に横枠(10a)に巻き付ける番線(11)の通し用の穴(3) を設け、さらに、側面体(2)を折り曲げて嵌合部(2b)を形成した」点を全く具備していないばかりか、塀板Aを支え材8で貫通させて相互に連結させているものであり、さらに、第6図に示されるように支え材8と胴縁6(横支柱)とを番線9で結合させるものである。すなわち、甲第6号証公報記載の発明は、本件発明1にはない支え材8という構成要素が極めて重要な役割を果たしているものである。よって、甲第6号証公報記載の発明と本件発明1とは、全く異なった構成の技術であるから、甲第6号証記載の発明をもって、本件発明1の技術的進歩性を否定する根拠とすることは許されない。
2 相違点(ⅱ)についての判断の誤りについて
引用例1記載の考案は、大きな風圧を受けても歪曲することがないように、ボルト孔、連結用ボルトにより、堅固に連結しようとするものであるのに対し、引用例2記載の考案は、ボルト等を用いることによる問題点を解決するために、ボルト等を用いることなく、接合部を単に付け合せて簡便に連結がなされるようにしたものであって、両考案はその目的が異なる。
また、引用例2記載の考案の名称は「壁面構造」であり、この考案の構成要素である基本パネルは壁面に沿って設けられるものである。一方、引用例1記載の考案の名称は「鋼板製組立式フェンスのユニット板」であり、その構成は、壁面ではなく支柱Bや横桟Cにユニット板に取り付けられるものであって、両者は異なっている。
さらに、引用例2記載の考案は、組立て後に分解することを前提としない点で、引用例1記載の考案とは異なる。
以上のとおり、引用例1記載の考案と引用例2記載の考案は、基本パネルやユニット板を連結させる点では共通するものの、その目的、実施態様等が大きく異なるものであるから、両者を組み合わせることに合理的理由はない。
第5当裁判所の判断
1 相違点(ⅰ)の判断の誤りについて
(1) 甲第5号証によれば、甲第5号証公報には、「考案の名称 フェンス固定具」(1頁1行)、「第3図は、従来の方法によるフェンス列を内側から見た説明図である。」(1頁右欄3行ないし5行)として、網目状のフェンスの網目の穴に針金9(番線)を通して、隣接するフェンス同士を連結しながら、同時にこの針金を支持パイプ8(横枠)に巻き付けてフェンス6を固定した様子を図示する第3図が、甲第5号証明細書には、「本考案は、建設工事などにおいて、道路占用や作業現場の仮囲いに使用するフェンスを設置する際に、隣接するフェンスどうしと支持パイプを締結固定するフェンス固定具に関するものである。」(1頁13行ないし16行)、「従来、この連結固定には、針金9を用いることによって緊縛固定していた。」(2頁4行ないし5行)として甲第5号証公報と同様の第3図が、それぞれ記載されていることが認めらる。
甲第6号証によれば、甲第6号証公報には、「本発明は鋼板製の仮囲いの組立法に関するものである。」(1頁左下欄17行ないし18行)、「本方法は、塀板を複数枚取纏めて、胴縁に間接的に固定することを特徴とする。」(1頁右下欄1行ないし2行)、「(ハ)支え材(8)と、塀板凸部(1)の内側との間に針金(9) 等を挿通し (ニ)針金(9)等で胴縁(6)を囲んで、支え材(8)と固く結束し 第7図(裏面図)の様に、枠組に塀板(A)を固定して完成する。」(1頁右下欄末行ないし2頁左上欄5行)として、仮囲いの塀板(網目状ではないフェンス)の穴に針金9を通し、その針金を胴縁6(横枠)に巻き付けて塀板を、支え材8を介して固定した様子を図示する第6、第7図が記載されていることが認められる。
以上の記載によれば、建設現場等で仮囲いを設置する際に、フェンスの穴に針金(番線)を通し、この番線を横枠に巻き付けてフェンスを固定することは、本件発明の出願前から周知慣用の技術であったことが認められる。
以上の事実によれば、引用例1記載の考案のフランジ(側面体)の適宜位置に設けた連結用孔(穴)に番線を通し、これを横枠に巻き付けること、すなわち、上記連結用孔を、横枠を巻き付ける番線の通し用の穴とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(2) 被告は、甲第5号証公報及び同号証明細書記載の技術は、フェンスが網目状になっており、この網目に番線を通しているから、「仮囲い板」に用いられる技術とは、全く異なると主張する。
しかし、網目状のフェンスも、網目のない鋼板製フェンスのユニット板(仮囲い板)も、ある区域を仮に囲い、その区域への進入を妨げるという仮囲い板としては同じであって、両者の技術分野は同一である。そして、網目の穴であれ、連結用孔であれ、同じように番線を通すことができることは自明であるから、網目の穴を使用して番線を通し、これを横枠に巻き付けるという周知慣用技術を、引用例1記載の考案の連結用孔に適用することが容易であることは明らかである。
(3) 被告は、甲第6号証公報記載の発明は、①本件発明1の、「側面体(2)の適宜位置に横枠(10a)に巻き付ける番線(11)の通し用の穴(3)を設け、さらに、側面体(2)を折り曲げて嵌合部(2b)を形成した」点を全く具備していない、②塀板Aを支え材8で貫通させて相互に連結させている、③支え材8と胴縁6(横支柱)とを番線9で結合させるものであるから、本件発明1とは、全く異なった構成の技術であると主張する。
しかし、甲第6号証公報記載の発明は、仮囲いを設置する際に、フェンスの穴に番線を通し、この番線を横枠に巻き付けてフェンスを固定しているものである。そして、①フェンスの穴が前面に開いているか側面体に開いているか、その側面体に嵌合部があるか否か、②フェンス同士が支え材によって連結されているか否か、③番線がフェンスを直接的に固定するのか、支え材を介して間接的に固定するのか、というようなことと関係なく、フェンスの穴には同じように番線を通すことができることは自明であるから、フェンスの穴に番線を通し、これを横枠に巻き付けるという周知慣用技術を、引用例1記載の考案の連結用孔に適用することが容易であることは明らかである。
(4) 被告は、従来技術においては、ユニット板を連結して同時に支柱に結合させることが困難であり、特に、ユニット板を横支柱に結合させることはできなかったと主張する。
しかし、フェンスの穴に番線を通し、これを横枠に巻き付けるという周知慣用技術を、引用例1記載の考案の連結用孔に適用すれば、ユニット板を連結して同時に支柱に結合させることになるのは自明である。ちなみに、甲第5号証公報及び甲第5号証明細書記載の技術でも、フェンスの網目の穴に番線を通し、これを横枠に巻き付けることによってフェンスを連結すると同時に支柱に結合させているのであって、このようなことに困難があったとは認められない。
2 相違点(ⅱ)についての判断の誤りについて
(1) 甲第4号証によれば、引用例2には、組立ハウスの壁面構造について、基本パネル(本件発明1の板本体に対応する。)の両側に、一方の側面の後半突出側部と、他方の側面の前半突出側部による接合部(本件発明1の嵌合部に対応する。)が形成されているものであることが認められる。
(2) 引用例1記載の考案も引用例2記載の考案も、板体を組み立てて壁を作ることに関する考案である。そして、引用例1記載の考案のフェンスのユニット板も、引用例2記載の考案の組立ハウスの基本パネルも、壁面を作る板体であることに変わりはなく、しかも、通常は鋼板製であって、例えば建築資材として使用されるものであるから、技術分野に強い関連性がある。
甲第4号証によれば、引用例2には、「従来この種の縦型壁面構造は平板パネルを順にビス、ボルト等によって連結した方式である為に、その接合部分から雨水が壁面内に浸入したり、或は壁面全体が弱い等の欠点があった。本考案に係る壁面構造体は従来の之等の欠点に鑑み開発された全く新規な技術に関するもの」(2頁3行ないし8行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、引用例2記載の考案は、壁面全体を強くするものであることが認められる。そして、ボルトを用いている引用例1記載の考案においても、壁面全体が更に強くなることが望ましいことは明らかであるから、引用例1記載の考案の壁面を更に強くするために引用例2記載の考案を適用し、側面体を折り曲げて嵌合部を形成することは、当業者が容易にし得たことというべきである。
(3) 被告は、引用例1記載の考案は、大きな風圧を受けても歪曲することがないように、ボルト孔、連結用ボルトにより、堅固に連結しようとするものであるのに対し、引用例2記載の考案は、ボルト等を用いることによる問題点を解決するために、ボルト等を用いることなく、接合部を単に付け合せて簡便に連結がなされるようにしたものであって、両考案はその目的が異なると主張する。
ア しかし、両考案の技術分野には強い関連性があること、壁面全体が強くなることが望ましいという点では両考案の技術的課題は共通であること、引用例2記載の嵌合部を形成する技術の効果は、引用例1記載の考案の効果を減殺することなく生じ得るものであることからすれば、両考案の目的に異なるところがあるとしても、そのことにより両者の組み合わせが困難となることはないということができる。
イ 前記(2)認定に係る引用例2の記載によれば、引用例2記載の考案には、壁面全体を強くすることのほかに、ビス、ボルト等によって連結した平面パネルの接合部分からの雨水の浸入を防ぐことをも目的とするものと認められる。そして、引用例1記載の考案のように野外に置かれるフェンスには、平面パネルの接合部分からの雨水の浸入を防止したいという要請があるものとは認められないが、少なくとも、これが防止できることが不利になるものではないから、引用例2記載の考案に上記目的があることは、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用することの妨げとなるものではない。
また、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用した場合には、ボルトの使用によりボルト穴からの雨水の浸入が発生することは明らかであるが、引用例1記載の考案のフェンスには、平面パネルの接合部分からの雨水の浸入を防止するという要請があるものとは認められないから、上記雨水の浸入の発生は、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用することの妨げとなるものではない。
以上のとおり、引用例1記載の考案がボルトを使用しており、引用例2記載の考案が、ビス、ボルト等によって連結した平面パネルの接合部分からの雨水の浸入を防ぐことをも目的とするものであることは、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用することの妨げにはならないものというべきである。
(4) また、被告は、引用例2記載の考案の基本パネルは壁面に沿って設けられるものであり、引用例1記載の考案は、壁面ではなく支柱Bや横桟Cにユニット板を取り付けられるものであって、両者は異なっていると主張する。しかし、引用例1記載の考案も引用例2記載の考案も、板体を組み立てて壁を作ることに関する考案であるから、それが他の壁面に沿って設けられるか、支柱や横桟に取り付けられるかという相違を、両考案の組み合わせを困難にするものとすることはできない。
(5) さらに、被告は、引用例2記載の考案は、引用例1記載の考案とは異なり、組立て後に分解することを前提とするものではないと主張する。
しかし、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用したとしても、そのことにより、後に分解することが困難になるものではない。そうである以上、組立て後に分解することを前提とするか否かという相違は、両考案の組み合わせを困難にするものではない。
3 以上のとおり、相違点(ⅰ)、(ⅱ)についての審決の認定判断は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
第6よって、原告らの本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)
<以下省略>